第12話【FEC療法初日】

5月30日。いよいよ初回の投薬日が来た。
午前中に行った「限度額適用認定証」の申請は
窓口が空いていたこともあり予想以上に早く終わった。
申請書に記入し、窓口に提出するとその場で「認定証」が発行され、
利用方法と有効期限について説明を受けた。

もう一つ元気なうちに済ませておきたい用事も片づけられたが
思いのほかこちらに時間がかかり、30分ほど休んだらそろそろ電車に乗って
病院へ向かわなければならない時間になっていた。
投薬前の食事は軽めに、と事前にもらっていたレジメに書いてあった。
今日の昼食はファミリーマートの大好きな鮭お握りを1個。
のん気な性質だが、さすがに緊張している。
大好きなお握り1つを食べるにも少し手こずってしまった。

投薬日の朝から飲むように指示された吐き気止めの薬の数が
私を不安にさせる。昨日は何度も間違いではないかと確認した。

私がこれから4回受ける抗がん剤治療は、
【FEC療法】(フェック療法)という。
フルオロウラシル(Fluorouracil)、エピルビシン(Epirubicin)、
シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、という
3つの抗がん剤を組み合わせた治療だ。

「各薬剤の名前は覚えなくて良いです。
でも、治療開始後にその他の医院にかかるようなことがあったら、
『FEC療法中です』と必ず伝えてください。」

C先生の診察前に薬剤師さんからそう説明を受けた。
緊張感が高まる。
これから投薬される薬の順番と、今後想定される副作用、
その時期や対処法などについて説明を受けたあと、
熱と血圧を測って診察を待つように指示された。

当日は母が付き添ってくれていた。
私の母は25年前、副作用に大変苦しんだので、
私が治療後一人で帰宅できるのか心配して出て来てくれていた。

「病院も変わったねぇ。
私の時代はこんなに詳しい説明はなかったよ。」

診察を待っている間、母は驚いたようにつぶやいていた。
母が治療を受けた時代は、医師の診断は【絶対】で、
患者への治療計画についてさえキチンとした説明などなかったという。

「あ、O野さん、体調は大丈夫?」

別の患者さんの用件で診察室から出てきたのであろう
C先生が、私を見つけて話しかけてきた。

「今日は頑張れる?」
一言だったが、その瞬間に先生は
私の手を握って、目を覗き込んだ。
体調を判断しているのだろう。

元気です、と笑ったが緊張して怯えているのが
バレないか、ドキドキした。

「緊張するのは仕方ないからね」

バレている。
でも逆に安心か。

その後の診察でも治療に問題ない、という判断が出たので
直前に服用する吐き気止めを飲み、
副作用対策の【氷】を売店で買い求め、化学療法室へ向かった。

 

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