第27話【幸運のノック】

FEC3クール目は大きな不調はないものの、
1、2クールでは感じなかった症状いくつか出ていた。

まず息切れと動悸。
どちらも瞬間的なものなのだが
夜の勤務先が混んでいて、
少しスピードアップした動きを続けたりすると
息が切れてドキドキしてしまうことが何度かあった。

次に両手の親指の変色。
うっすらとではあるが、爪半月の上の部分が紫色がかってきた。
そして私が一番、驚いたのが便秘。
2クール目までほとんど影響はなかったのだけれども、
3クール目ではいきなり通じが悪くなった。
朝昼晩の3回下剤を飲んでようやく、と言った感じ。

「元気、元気」と思っていても、徐々に蓄積された
薬の影響が出てきている、ということなのか。
だとしたら、予定も少し用心して立てたほうが良いかな。

そんなことを考えていた時、Gさんからメッセージが届いた。
私は前日に乳ガンになったことと、このブログを始めたことを
親しい人に知らせていたのだが、ブログを読んでくれたらしい。

私は昔、ミュージカルの学校に通っていたことがあった。
Gさんは私より歳下だったが、1期上の先輩にあたる女性で
小柄ながらその歌声やダンスはとてもパワフルで、笑顔が魅力的な人だった。
卒業後は、舞台での活躍はもちろん、
子どもたちの情操教育(ちょっと表現が古いかも?)など
いろいろなお仕事でその能力を発揮していた。

【食事療法】を考えているのなら
紹介したいお店がある、と連絡してくれたのだ。
食の大切さを伝えるお仕事もされているらしい。
素直にありがたかった。

私は標準治療(化学療法、手術、放射線療法)に加えて
食事についても見直そう!と意気込んではいたのだが
なにせ今までが肉と白飯に偏っていたのだ。
その反動は、なんとなくありがちな
「とにかく野菜!!とりあえず野菜?」で終わっていた。
Gさんはそんな私を見抜いたようだ。
是非、お願いしたいです、とメッセージを送ると
それならお店に相談してみましょう、と
忙しい身なのにすぐに返信を頂いた。嬉しかった。

その2日後は、かねてより約束をしていたHさんと再会した。
ミュージカルの学校で同じ舞台に立ったHさんは
明るくて人あたりが良く、クラスの【癒し】的な存在だった。
そのHさんは私より少し先に同じ病気と闘っていた。
素直に頼りたかった。

Hさんは最後の化学療法を終えるところで
副作用はかなりキツイ、と連絡をもらっていた。
事前に病院で説明されるあらゆる副作用が出ているらしい。
そのうえ7月に入ってからの連日の暑さで大丈夫かな、と心配していたが
当日待ち合わせたヴェトナム料理店には元気なHさんが入ってきた。
良かった。

注文もそこそこにHさんが切り出した。
「身体が痛いんだって?」
C先生にうまく話せなかった、身体の奥をグッと押されるような痛み。
ひとりで勝手に【ぐわしっ!痛】と名付けた痛み。

その話について私は事前に連絡していなかったのだが
やはり一緒に舞台に立ったIさんが
Hさんに私のブログ記事を送ってくれていたらしい。

「はい、でもいわゆる血管痛ではないんです」

「うん、うん」

抗がん剤は、がん細胞だけでなく
正常な細胞も傷つけてしまうのだが、
血管も刺激するらしく、しばしば点滴をした左腕の
血管が突っ張るような痛みがあった。
長時間続くことはないのだが、これがなかなかに痛い。
ただ先生に訴えたかったのはこの痛みではない。

「その痛みはね・・・」

Hさんが話してくれたその【痛み】。
それは私がまったく想像していなかったものだった。

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