第28話【グッド・ニュース】

「抗がん剤治療を始めると白血球が減るでしょ?
O野ちゃんのその痛みは、少なくなった白血球を
骨が作ろうとしている時の痛みなんだよ」

「えええっ!?」

驚いた。いや本当に驚いた。
高校だったか中学だったか、理科の授業で学んだ
「骨髄=血液をつくるトコロ」のお話し!?

痛みをうまく伝えられないので
C先生にはもちろん、ネット検索もできなかった。
それが、IさんがHさんに知らせてくれたおかげで
再会して10分もしないうちに私が最近悩んでいたことが
あっと言う間に解決してしまった。
やっぱり同じ病気をしている人の話って聞くべきだなって思った。
そしてIさんに感謝した。
実はその日、Iさんは音楽劇の公演の初日を迎えていたのだ。
私は今頃、場当たりをしているだろうIさんを思った。
最初は迷ったが、親しい人に近況を話して良かった。
本当に困った時、いつも私は誰かに助けてもらっている。

それにしてもこの痛みは良い痛みなんだ。
身体が病気と闘っている証なんだね。
くだらないけど直感的に「ひでぶ」じゃなくて
「ぐわしっ!」にして良かった。

「それとね・・・」Hさんが続ける。

「私も同じFECをやっているけど、FEC自体では
しこりはそんなに劇的に小さくなったりはしないらしいよ。
むしろこのあとにハーセプチンを予定しているんでしょ?
これは本当によく効くらしいよ!」

Hさんが入院中、隣のベッドにいた患者さんは
薬剤師さんで薬の話をよくしていたらしい。
その薬剤師さんも私の治療計画に入っている
分子標的薬療法の「ハーセプチン」は絶賛していたとか。
ほかにも同病の友人の方がこの薬を投薬したことで
ガン細胞がなくなった事例などもあると話してくれた。
HER2陽性でこの薬の投薬対象になったのは
むしろラッキーだと思っていいんだよ、と言ってくれた。

ここのところ、「元気です!大丈夫!」と言いつつ
少しづつ出てきた副作用と実感できない治療効果に
正直、不安な毎日を送って来ていた。

だから私はその日、久しぶりに安心してたくさん笑っていた。

「そうそう、笑いと言えばさ・・・」

同じ病気をしている女子同士の会話は【脱毛】に及ぶ。
詳細は内緒だけれど、髪の脱毛パターンは人それぞれ。
Hさんのパートナーさんが彼女を見て言った感想。
そのキャラクター名を聞いて思わず笑ってしまった。
でも<笑い飛ばす>くらいの気持ちが大事だよね、との結論になる。

ヒソヒソ話とクスクス笑いは続く。
あのね。
副作用で抜けるのは【髪の毛】ではありません。
厳密に言えば【体の毛】。

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第29話【情報戦】

「私はね、FEC よりドセタキセルの方が副作用がキツかったの」

ドセタキセルというのは抗がん剤の1つで、
私もFEC のあとの投薬計画に入っている。
このドセタキセル治療で、Hさんは投薬中から具合が悪くなったらしい。
また味覚障害がひどく肉がまったく食べられなくなってしまい、
タンパク質の数値が極端に下がってしまったとのこと。
その結果、治療に影響が出てしまうので、
その対応にも苦労されたことなどを話してくれた。

う~ん、そうなのか。
なんだかんだ言って私のFEC はあと1回で終わる。
副作用については、治療前に聞いていた話より
わりと元気に過ごせていたので、
次のドセタキセルについても大丈夫だろう、と完全に油断してた。

でも確かに薬が変わったら身体の反応も変わるよね。
FECは生まれて初めての抗がん剤経験で、かなり用心してたから
なんとか大丈夫、元気、元気って思ったのかもしれないしね。
聞いておいて良かった。

それと食事のコト。

「タンパク質って大事なのよ~!」

Hさんが熱く語る。
私は「食事療法も頑張ります!」って言っているわりに
そこまでお勉強やら意識やらが間に合ってなくて・・・

『少し痩せた?』

3回目のFECの前の診察でC先生に質問された。

『はい。ほんの少しですけど。
でもそれは食生活を見直したからだと思います。
今まで肉ばっかりで・・・』

「見直す」という言葉をあんまり深く考えずに答えたその瞬間、
私に顔の左側を見せながら診察内容をPCに入力していた先生が、
ピタッと手を止めてもの凄い勢いで振り向いた。

『肉も食べなきゃだめよ。乳製品も食べていいの。
バランスよく食べるの!』

あまりの勢いに圧倒されて『はい』って言えなかった。
『ふぁいっ』って間抜けな返事しちゃいました。

C先生がはじめて言った強めの言葉にちょっと驚いたけど、
やっぱりそれだけ大事なんだね、食事。
私は今のところ副作用で食べられない、ということはないのだから
しっかり考えて食べなきゃ。

この記事をまとめている間に、G さんから連絡があった。
当初、紹介を予定してくれていた食事療法のお店は
都合がつかなかったので別のお店を紹介してくれるということ、
また食事療法についての記事も送ってくれていた。

『ガン治療は情報戦です
数日前に読んだ本に記されていた文字。
私はまだまだ新米サバイバーだが共感した。
標準治療(化学療法・手術・放射線治療)と呼ばれる治療以外にも
さまざまな治療法があるらしい。
高濃度ビタミンC 注射、免疫細胞療法等々・・・

どの治療法を選択するかは、最終的に患者なのだけれども、
なにせ手術も抗がん剤治療も副作用などのリスクが大きいし、
そうかと言って「標準」と呼ばれる治療以外については、
保険が効かなかったりするから、治療費もかなり高額になる。
そうなるとそれだけの効果があるのかどうか、
やはり慎重になってしまうのです。新米の私としては・・・。

だから自分の治療法を決めるためには、
まず自分の病気についてできるだけ勉強しようと思う。
検討・選択する材料はたくさんあった方が良いので
情報も可能な限り集める。
そして何より、先輩サバイバーや
その道のプロの方のアドバイスをもらう。
検討材料は多いほうが良いけど、新米サバイバーの私には
やっぱり情報をうまく整理できなかったり
どうしても判断に迷うことも多々あるのよね。

私はたまたま身近に、病気をした先輩サバイバーや
食の大切さを伝えるプロがいてお話を聞くことができるけど、
たとえ身近に相談できる人がいなくても、
同じ病気をした人の会やネットワークというのもあって、
相談や情報交換・勉強会をしている場があるとも聞いている。

まだまだ治療は長いので、一度参加してみたいと考えています。

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