第40話【入院】

自分の闘病生活の中で経験したことや学んだことが
少しでも誰かの参考になれば、と思ってできるだけ細かく
書こうと思って始めたブログだけれどもすっかりご無沙汰してしまった。
むしろうんともすんとも言わないブログに、
具合が悪いのではないか?と
周囲を心配させているだけなので
一気に入院初日まで話を進めまする。

私がかかっている病院では、手術の前日に入院すれば良かったのだけれど、
わたしの術日の前日は祝日だったので(事前の検査ができない)、
2日前に入院することになった。

不思議なことに【手術】は不安だっだけれど【入院】はちょっと楽しみだった。
だって良いほうに考えれば、食事は作らなくても出てくるのですよ!
そして誰に文句を言われることもなく終日ベッドで堂々と
眠っていられるんですよ!
入院直前が忙しかったので、やっと休憩できる、と期待しちゃうでしょ。

私の部屋はフロアの端の6人部屋。
事務スタッフに案内されて部屋に入ると、左右に3つづつベッドが並んでいて
それぞれがクリーム色のカーテンで仕切られている。
私のベッドは左側の出入り口に一番近いベッドだった。
小さな冷蔵庫と、有料のテレビが備えつけられている。

これにはテンションが上がりまくった。

「個室っ!!」

6人部屋をお願いしたとき、なんとなく自衛隊の訓練時の記憶が強かったのか、
ベッドだけが6個どん、どん、どん、と置かれているだけの
ちょっと冷たそうな真っ白い部屋を想像していた。
だから暖かいクリーム色の壁とカーテンで仕切られていて、
プライバシーがあることに異常に興奮してしまった。
6人部屋だけど私の中では立派な「個室」なのだ。

予想以上に良い環境に気をよくした私はさっそく、
ご一緒する部屋の方に挨拶を!と勢い込んだが・・・

カーテンが閉まっているのでよく分からないが、
それぞれの体調でおやすみになっているようだった。
よく考えればここは病室なので当たり前だ。
休んでいる人をわざわざ起こすのもどうかと思うので
カーテンが開いた時やらタイミングがあったときやらに
ご挨拶すれば良いか、ということして荷をほどいた。

この日の午後は術前検査があるのだ。
それまでに手術の時に担当してくださる麻酔科の先生が来て
お話しがあるとのことだったのだけれど、
先生がお忙しいのか、なかなかお見えにならず
付添で来てくれていた母とふたり、ただただボーとベッドに腰掛けて
母はこれからの入院生活について、
私は1回目の病院食となる昼食について、それぞれ思いを馳せていた。

2+

第41話【術前検査】

術前検査は【超音波】【MRI】をすることになっていた。
手術の前に最終的に検査をして備えるのだそうだ。
それぞれ何度か経験しているので特に不安はない。
通常は待たされることも多いのだけれど、入院患者ということで
外来の検査が終わるまで病室で待機できた。

朝の10時に入院し、麻酔科の先生の話を聞いて同意書にサインをし、
昼食を食べただけなのだけれどなんとなく眠くて仕方がなかった。
ベッドで横になっていると看護師さんが声掛けに来てくれたので
寝ぼけながら検査を受けた。

MRIは特に問題なく終わった。
あとは超音波検査。これもいつも通り終わるだろうと思っていた。
ただ今回、私の検査に立ち会っている検査技師の方がいつもより多い気がした。
たまに若い技師さんや海外の学生が【研修】しているからかな、と思った。
その場合はなんらかの断りとかいつもあるのだけれど。

ま、いっか。
なんて思っている間に右の検査が終わった。
この日は手術の箇所を示すためにペンで印を描かれる。

「じゃ次は左をチェックしますね」と検査技師の方が言った。

思わず「はい。」と答えたけれど(?。左も?)

手術するのは【右胸】なんだけれど。
念のためなのかな?
いつもの検査でも左右行っていたから
あんまり何も考えていなかった。

すぐ終わると思った左胸の検査。
いつもより多い検査技師さんたちが画面を見ながら何やら話し込んでいて
右側より時間がかかっている。

いくらなんでも時間がかかり過ぎじゃない?
割とのんびりしている自分もさすがにイライラしてきた頃に、

「じゃ、マークつけていきますね」と言われた。

(?????)

そのマーキングもえらく手こずっているようだった。
画面を見ているベテラン(と思う)技師さんの指示に従って
最初は若い人が印を書いていたのだが、意図した箇所ではないのか
なんども修正して、結局ベテランの技師さんが書くことになった。

(もしかして、勘違いしている?)

ぎょっとした。
なんでか分からないけど、手術の必要がない左胸が切られてしまうかもしれない。
いわゆる「医療事故」?

急に怖くなってきたので、胸をさらしたまま勇気を出して言ってみた。

「あの、手術をするのは右側なのですが」

言った瞬間、検査室の場が固まったのをハッキリ感じた。

少しの沈黙のあと、ベテラン技師さんが戸惑ったように、
でもできるだけ私を気遣うように確認した。

「C先生からお話しは伺っていないですか?」

状況がよく理解できなかったので今日の流れを話して
C先生にはまだ会っていないことを伝えた。
若い技師さんが部屋を出て行きどこかへ連絡を取りにいったようだ。すぐに戻ってきた若い技師さんがベテラン技師さんに耳打ちする。

「このあとC先生がご説明しますからね。
とりあえず印だけつけておきますからね」

どうして手術の必要がない左胸にも印をつけるのか、
その理由はそこでは話してもらえなかった。

 

2+

第42話【衝撃】

C先生からの説明は外来診察が終わってから、とのことだった。まさか新たな話があるとは思わなかったので、検査の前に母は帰していた。

何の話だろう?

入院の2週前にも検査があった。それは手術の方針について最終的な決定をするためのガンの状態確認だった。その検査の時も超音波検査はものすごく時間がかかった。何度も何度も確認していた。

「お待たせしてスミマセンね。でも右脇にあったガン(転移していたもの)が見つからないんです。ハーセプチンが効いて消えたのかもしれませんね。頑張りましたね。」ようやく確認作業に納得した検査技師さんが、明るい声で状況を説明してくれた。

もちろん、最終的な判断はC先生がするのだろうけど、私は少し舞い上がった。

(リンパ切らなくても良くなるかも‼)

右胸のガンもかなり小さくなっていると言う。切る箇所は当初の予定より小さくて済むかもしれない、と小躍りしていた。
だから新しい話が何なのか、さっぱり見当がつかなかった。

検査が終わって病室に戻ると、間もなく夕食の時間だったけれど、なんとなく手持無沙汰だったので病棟を探索した。

フロアには複数名部屋と個室がそれぞれいくつかと、ナースステーション、カンファレンスルーム、面談室なるものがあった。カンファレンスルームで執刀の先生ほかチームのメンバーで手術の方針について話し合うらしい。私がウロウロと探索しているときも会議があった。遅れて入って行った先生の背中で閉まりかける扉から、沢山の白衣を来た先生方が前方に掲げられているレントゲン写真を見つめているのが見えた。

18時の夕食時に、仕事を終えたパートナーが、シッカリ自分の食糧持参で見舞いに来た。

「カクカクシカジカ、何だか新しい話しがあるらしいよ。モグモグモグモグ」
「じゃぁ一緒に聞くよ、モグモグモグ」

夕食を終え、治療に来ているのか、旅行に来ているのか分からないくらい二人でマッタリし始めた19時頃、C先生が病室に見えた。そして、私とパートナーは先ほどの探索で見つけた面談室に誘導された。面談室は3人が目一杯な広さだった。

「単刀直入に話すわね。」

先生は席に着くなりそう切り出した。

「左胸に腫瘍が見つかったの。とても小さいので今まで見つけられなかったの。」

一瞬、先生が何を言っているか分からなかった。

7ケ月前、私は両側乳癌の疑いでC病院を紹介してもらった。
左胸については7ヶ月前に乳癌の疑いがある、と言われたB病院で確かに指摘があった。でも結局乳癌の診断は右胸と右腋下の転移だけで、左は何も言われなかった。左はずっと昔に【乳腺症】と言われたことがあったので、今回も大丈夫だったんだ、と思い込んでしまった。
だからあまり左については確認をしてこなかった。
C先生によるとその腫瘍は、2週前の検査で超音波検査の先生が気付いてくれたらしい。良性か悪性かは切って見ないと分からない、でも可能性として悪性である確率が高いと超音波の先生が頑として主張しているとのコトだった。
きっと先ほど覗いたカンファレンスルームで、私のレントゲンやエコー写真を前にたくさんの先生や技師さん、看護師さんが意見を戦わせてくれたんだろう。

「それでね…」

腫瘍のある場所が難しいらしく、術後の形は余りキレイにはならないかもしれない、とのことだった。

この2週間、抗がん剤とハーセプチンが効いて、手術で切るトコロは小さくて済むと勝手に思い込み、やれ嬉しや、とパートナーと勝手に喜んでいた。
だから余りにも予想しない展開に頭が久々に真っ白になった。
そして、40歳も半ばにして恥ずかしいのだけれども、
ジワジワと視界が滲みだした。
なんとか溢れ出るものがこぼれないような姿勢を取りつつ、話を聞く。

「手術に同意しますか。」

明後日に手術を控えているというのに、今さら拒否できるのだろうか。
いや、拒否はできるだろう。そのための説明と確認なのだから。
でも動揺しまくっている私の頭の回転は止まりかかっている。
この時、パートナーが同席して話を聞いてくれていて本当に良かったと思う。
切らなくても済むかも、と淡い期待を抱いていた右のリンパについても廓清するとのこと。
(重要な説明の時には、【冷静に話を聞いて判断できる】家族やパートナーが同席することがとても大切だとつくづく思う。)
フリーズしている私の代わりに手術の細部を何点か先生に確認して、どうするかと問うように私の顔を見た。
私にはこのまま手術を受けるしかないように思えた。

面談室を出た私は、パートナーに抱きかかえられるようにしてヨロヨロと病室に戻ったことを覚えている。

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