第10話【禁酒禁煙・食生活】

経済的な心配については、Eさんのおかげでひとまず落ち着いた。
であれば治療に向けた身体の準備に入ろうと考えた。

まずは自発的に食生活の見直し。
正直言って今までの私は「白飯と肉・白飯と肉・白飯と肉」生活だった。
野菜やフルーツは嫌いで、酒とたばこもやっていた。
偏った食生活はどんな病気でも良いわけがない。

山盛りの白飯をかなり減らし、
最近流行っているというパワーサラダ(風)を取り入れた。
ビタミン、ミネラル、食物繊維、タンパク質に脂質などの
栄養素を無理なく摂取することができるというパワーサラダ。
たんぱく質50g、野菜は175g、果物は100g程度と
作り方にポイントがあるらしいのだが、そもそも大雑把な人間が、
「こんな感じか?」で作っているので、「風」。
それでもおいしかった。
今までの食生活の反省とこれからの治療を耐えるための危機感からか
身体の中心が「野菜をくれ!野菜をくれ!」と叫んでいた。

ちなみに写真はサーモンとアドガドサラダ丼。
野菜はオクラ・ブロッコリースプラウトやトマト、レタスなど
適当なのだけれど、とりあえず彩りに注意して作ってみた。
マヨネーズをちょっと丼の上にかけて、わさびを溶かした出汁醤油で頂く。

山盛りご飯は「白飯愛」がそうさせていたのだが、
最初にサラダを食べると、少ない白飯量でも満たされた。

そこに、今までビールでお腹が一杯になるので
自分はあまり飲まなかったお味噌汁をプラス。
パワーサラダに飽きたら、野菜一杯の「食べる味噌汁」にした。
病気だから、といっても大雑把で面倒臭がりの性格は
そうすぐには直らないので、できるところから始めてみる。

酒とたばこは、いろいろ調べた結果、自分の中で
乳がんに関してはやはりリスクが大きいという結論が出た。

たしかにこの数年の酒量は自慢ではないがハンパではなかった。
飲みたくて飲んでるわけではなくて、イヤなことがあると
それを忘れるためにベロベロになるまで飲む、という感じで
酒が入ると自然にたばこが欲しくなる、という具合だった。
ストレス解消で飲んでいるつもりが、翌朝の気持ち悪さと
自分の性格の弱さに、ひどい自己嫌悪に陥っていて、
最近では、好んでみる海外ドラマでよく聞く
「断酒会」について興味を持っていた。

「これを機に酒とたばこはやめます。抗がん剤治療が始まったら」

「はぁっ?」

なぜ、今すぐやめないのか、という
至極もっともな怒りを含んだパートナーの反応。
けれどもすぐにやめられるのなら、とっくにやめているのだよ。
そういう意味では禁酒薬や禁煙薬と同じ考え方で、
抗がん剤の副作用が出て、とても欲しくならない、という
タイミングで止めるのがベストだと思う、と言った。

パートナーとは一緒に住んで7年経つが、
その時の「はぁっ?」はこの先ずっと忘れないだろう。
こういう顔もするのか、私が愛おしいと思っていた顔は
意外と面白い顔だったんだな、と考えていることに
気付かれたら更に怒られると思ったので
量はもちろん、減らします、という言葉を添えて
私は歯医者に行く予定も話した。

「それは良いと思う。抗がん剤治療が始まったら口の中も
口内炎が出来たりして、食事や会話も大変になるっていうし、
今のうちにできるだけ口の中はきれいにしておいたほうがいいよ」

治療しかけで放っておいた虫歯があった。
たばこも吸っているので、そろそろ歯の汚れを取りにいく時期でもあった。

いつも行く歯医者さんに事情を説明した。
そういうことならよく見ておきましょう、ということだったのだが
虫歯を治療したあとの詰め物が、最初の投薬までに間に合わないことが分かった。

「副作用、結構大変と聞きますからね。
始まったら歯科治療どころじゃなくなるかもしれないなぁ。
とりあえず歯はきれいに磨けているようなので、今日はできる限り
クリーニングしておきましょう。あとは治療が始まって様子みて
また来てください。あ、たばこはやめてみるのが良いでしょうねぇ。」

痛みや苦しみがなくなるとすぐに忘れて別のことに気を取られてしまう私。
虫歯治療を放置していた自分を後悔した。

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