第11話【身辺整理】

今思いつく限りの治療準備はできたと思った。

「限度額適用認定証」については、
私は国民健康保険に加入しているので、
区役所の国保の窓口で手続きをするが、
日程的に治療初日の朝、病院へ行く前に手続きをするしかなかった。
また、少し気になっている医療用ウィッグ店での試着については、
投薬後にしか都合がつきそうにない。

バタバタと準備したので、きっと後から
思いつくものもあるかもしれないが、
まぁその時はその時で対応しよう。

少し気持ちが落ち着いたのか、新しい気持ちが芽生えていた。
これから自分はガンの治療をする。
それは健康を取り戻すための治療だ。
心からそう思っている。
でもその一方で、命には限りがあって、
それがいつどうなるかは誰にも分からないんだな、という気持ちも
治療準備の中で芽生えていた。

私は30代の頃「うつ病」を経験している。
当時の私には仕事や家族や人間関係などで
一斉に問題が生じ、なんとか解決しようと頑張っていたが
ある朝、突然、「頭」と「身体」と「心」を繋いでいる糸が切れてしまった。
あの日の朝を私は今でも覚えている。
頭では指令を出しているのだが、身体がまったく反応しない。
ただ、ただ、涙だけがこぼれていた朝。
今思えばあの頃の自分は、自分で大きな物事を
判断すべきではなかった、と今でも後悔している。

けれども心配を掛けたくなくて
実家の家族に話すことはできなかったし、
そもそも周囲や医師の助言に耳を傾けることもできない状態だったので、急な退職なども独りで決めてしまった。
しかしその後、傷病手当など当面の生活に必要な申請が
独りではできず、また誰にも相談できず、
本当を言えば、良いか悪いかよく分からずにした判断は
その後、経済的に、精神的に私を苦しめることになり、
回復と再発を6年も繰り返してしまった。

それが、2年前に医師から「もう大丈夫」という診断をもらい、
なによりこの1年は、少し「回復」という言葉に慎重になった自分でも
心から病気をする前の私だ、と実感できていた。
とても嬉しかった。
この6年で迷惑をかけてしまった人へお詫びもしたい。
そしてできなかったことをやってみたい。
色々な活動プランが頭の中で歌い踊り出した。

とは言え、人生はまだまだ長い。
もう一度くらい大きな病気をするような気がしていた。
その考えは確かに頭の片隅にはあった。
そしてそれは、またしても「突然」やって来た。

これを機に身のまわりを整理しよう。
必要なもの、不要なものを整理して、万一の時に掛けてしまう
パートナーや家族の手間はなるべく省いていこうと思った。

と大そうなことを考えたのだが、すぐに思いついて実行できたのは、
使っていないクレジットカードの解約や
ダイレクトメールの購読キャンセルくらいだった。

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