第24話【禁煙外来~チャンピックス】

私は抗がん剤治療を機に「禁酒・禁煙」を宣言した。
ところが実際に実践できたのはたった9日間だった。
これは、思いのほか苦しい副作用がなかったことと、
「9日間止められたのならいつでもまた止められる。なら1本だけ」
という、禁煙失敗あるあるを思いきりやってしまったからだ。

1本吸ってしまったら、習慣でダラダラ吸ってしまう。
もちろん病気のことは気になっているので
今まで1日20本だったものが10本までに減っていた。
でも週末に『今週も頑張ったなぁ』などとビールを1本開けてしまうと
たばこの本数も勢い増えてしまう。

「これはダメだな。」

治療を受けるにあたり、私自身いろいろと勉強して
自分でできることは併用してやってみよう、と決めたつもりだった。
それなのに、『今の私の身体には悪いので絶対、止める!』と
最も決意していることが実践できていない。

自分の意思だけでは無理だと判断した私は、
禁煙宣言の翌日にパートナーから渡されていた
近所の禁煙外来一覧を見ていた。
私より先にパートナーはこうなることを予測していたのだろう。
ありがたいやら恐ろしいやら。
もちろん禁煙外来に行くことは事前にC先生に相談してOKをもらっている。

病院を決め、いざ予約の段になった時に
院長が病気のためしばらく休診することが分かった。

「ふうむ」
別の病院にしようかとも思ったのだが、禁煙治療も3か月ほど
通わなくてはいけない。
それを考えると近いほうが有難い。
10日ほどあけて様子を見ると既に診療が始まっていた。

「ふ~ん。そう。あのねぇ、禁煙って禁煙補助薬だけでは
成功しないのよ。自分の意思が必要。分かる?」

50代後半から60代前半の男性院長のなんだか高圧的なモノの言い方が気になった。大きなマスクとメガネで表情があまり良く見えない。

自分の意思が必要なのは分かっているけど
それだけでは失敗したから助けを求めているのではないか。
なんだか3か月もこの先生と頑張れる気がしないな、病院変えようかな、と考えた。

「・・・スケジュールとしては12週間が基本なの。この間は健康保険が適用できますが、これを過ぎると自由診療になるから。また自分で判断して中断した場合は、最初の診察から1年を経過しないと自由診療になります・・・」

頭のなかでこの先生ではないかも、と思っているので
説明している言葉があまり入ってこない。

「・・・このチャンピックスを使うと、副作用として吐き気や変な夢を見たりすることがあるんだけど、精神疾患はありますか?」

う~ん。かつて鬱病を患っていたことは話した方がよいのだろうか。
でも今はそれらの薬は飲んでいないしなぁ。
なんとくなく「いいえ」と答えてしまった。

「じゃ、処方します。良いですね」

この先生に決めた。
私はこれから禁煙をするのだ。自分に都合の良い先生では
また何かしら甘えてタバコを吸ってしまうだろう。

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